G軍曹の書斎

小説です。

「ディザスター王国 ④」

ちょうどブルーアイズがG.G(ゲロガール)と出会った頃、リニアはベットの上で目を覚ました。
抱きしめている枕は何故か破けており、中から羽が出ている状態だったがリニアはそれを気にせずベットから起き上がる。
ふわぁぁ...とあくびを一つ。
ボーッとする頭で部屋を見渡してみたが、ブルーアイズの姿はない。
その代わり、ブルーアイズが寝ていた(らしい)ところに紙切れが落ちていた。
その紙には「出てくる」と書かれている。
「『出てくる』......」

手紙を読んでリニアは自分が置いていかれたことを知る。
暫く黙っていたリニアだが、気持ちを切り替えたのか紙をゴミ箱に投げ捨てると文句を言いながらも支度を始めた。
(あの野郎...一人早起きしやがって.......ブツブツ......)
こうしてリニアの一日が始まった。

太陽はすでに真上から少し傾いた位置にあった。



宿の主人に鍵を預けてリニアは外の大通りに出る。
予想以上の人の多さに少し驚いた彼女だったが、ここが城下町であることを思い出し一人納得した。
道路の横にある柵の向こうには町が広がっている。
吹き抜ける風が彼女を優しく包んだ。
こんなに平和な国に来たのは久しぶりだ。せっかくなので少し町を見て回ることにした。

さぁて...どこ行こっかな〜...そう思った時である。ガタイのいい男がリニアの前方を塞いだ。
「よぉねぇちゃん......俺らと遊ぼうぜ」
と男はタオルに隠した何やらとんがった物をリニアに突きつけながら言った。
何やらとんがった物はリニアの脇腹を突つく。
なんだただのゴロツキ...か......、小声でボソッと言ったリニアは何を思ったのか両手を胸の前に寄せてガクガクと震え出した。その顔には涙が浮かんている。
 その表情を見た男はニンマリと笑ってリニアの肩に手を回し、路地裏へと誘導した。
(どこの国にもいるんだよなぁ...こういう輩...)
心の中でリニアは再びブツブツ文句を言い始める。今日は運がない気がする...。
実際に今日は既に二回もついてないことがあった。

男に連れられて入った路地裏には仲間と思われる男達が5、6人居た。
全員片手に鈍器を持っている。普通の人なら怯えるばかりで何もできないだろう。しかし彼女は国際警察であり、その中でも化け物じみた「Remove」のメンバーである。
こんなことでは動じない。
リニアは先程から続けていた演技をピタリとやめる。
そしてニッコリ笑った。
偽りの笑みである。

流石におかしいと思ったのか、男のうちの一人がリニアに近づく。
「さぁて...どうしようかな〜」
今度は周りの人の耳にも届くくらいの音量で呟く。
その言葉が癇に障ったのか知らないが、男たちの顔に青筋が浮かぶ。
「バキッ!!」
男の一人が壁を叩いた。
それを合図に男たちは武器を構える。
リニアに一番近い男が鈍器を掲げて襲いかかろうとした時だった。
リニアの感覚が殺意を感じ取る。
(敵....!?)
とっさに防御体制に入ろうとした彼女の視界を何か人影が横切った。
ブォン...!!という風の音が耳元で鳴り響く。
(!!?)
神経を張り詰めながらリニアは後ろを向く。
左手が武器を取るべくスカートのしたに入る。
ひゅっと銃をケースから抜き、構えようとした次の瞬間にだった。

轟......!!! 爆発音にも似た轟音とともに男達が宙に舞う。

そしてドスンと地面に落ちてそれっきり動かなくなった。
(.....!?)
状況がうまく掴めないリニアは呆然とその光景を眺めていた。
すると向こう側から人が歩いてきた。
ツンツン頭で右手に剣を持った男......服装からして兵士だ。
その瞳からはかすかに殺気を感じる。

右手に持っていた剣を肩にかけると、先程とは一変した笑顔でリニアの前に立った。
「お怪我はありませんかお嬢さん?」
呆然としていたリニアはハッと我に返ると、大丈夫というように首を横に振った。
「ええっと...その拳銃は...?」
リニアの手元に視線を落とした兵士は少し低い声で質問した。
「あーこれはそのー...私、こういう者です」
リニアは慌ててポケットからP.Pを出し、警察であることを証明した。
「ああ、これは失礼を...国警の方でしたか」
再び元のトーンの声になり、兵士は背筋を伸ばした。
鎧がガタガタと音を立てる。
その胸元には兵士の証であるエンブレムが、刻まれていた。
「あなたはこの国の兵士さんでしたか、先程はありがとうございました」
とリニアは形ばかりだがお礼を述べた。
それに対し兵士は「兵士として当然のことを((ry」というありふれた台詞をいった。
流石ディザスター王国...兵士のレベルがここまで高いのか......、一人感心しているリニアを傍らに兵士は両手いっぱいに男たちを担いだ。
男たちは唸りをあげているが、動かない。
どうやら気絶していただけのようだ。
「では、また何かあったら呼んでください」

兵士はそういうと男達を担いだ状態で路地裏を出て行った。

兵士の瞳からは先ほどとは違う、使命感や寂しさが感じられた。


(何だったんだろう...)
そう思ったリニアだったが、まぁいいかというように兵士とは反対方向に歩き出す。

観光の続きをせねば。
リニアの頭の中は既にそのことしか考えていなかった。


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暫く観光を楽しんだ後だった。
自分の額にボフッという衝撃が走る。
そのせいで少し後ろに飛ばされたリニアだったが、なんとか堪えた。
(よそ見し過ぎたなぁ......)
そう思いながらぶつかった相手を見る。
黒髪のコートを着た少年だった。背中にはぐでっとした少女を背負っている。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
いつもよりワントーン高い声でリニアは言う。
「ん?あぁ、俺は大丈夫だよ」
とその少年は言った。
「あなたもですけど......」
「ああ、この子か」
少年は少女を見ながら言った。
幾ら無愛想なリニアでも、歳が同じくらいの少女が異常にグッタリしていることに疑問を感じた。
(もしかして病人だったのかな......?)
そう思うと少々不安になる。
(人さらいか......?いや、流石に昼にそれはないか......)

「あぁ、はしゃぎ過ぎて疲れてるんだよ」

リニアが不安になっているのを察したのかは知らないが、少年はあっさりと答えた。
(なるほど......)
一般的な回答に納得しかけた彼女だが、ここで疑問が生じる。
何をしたらそこまで疲れられるのだろうか?
「うぅ......」
すると突然少女がうめき声を挙げた。
どうやら寝ていたところをさっきの衝撃で起こしてしまったらしい。
頭のアホ毛がピクリと動く。

(そうだ!)

その少女を見てリニアの頭にあるアイデアが浮かぶ。
彼女は迷わずそれを実行した。
「お詫びといってはなんですが、電流による疲労回復処置をしましょうか?」
リニアは特殊な種族出身で電流を操ることができる。実際ブルーアイズにも何度か試したことはあった。今回はこれを実践してみる。

少年は驚きも怪しがりもせず、「どうする?」と一言彼女に聞いた。
すると「お''ね''か''い''し''ま''す''......」と血をはう老女のような声が聞こえてきた。

リニアは珍しく国警の支給品の手袋を右手にはめると、大きく深呼吸した。
意識を集中し、微弱な電流をその少女に流す。
(ジリリリリリリリリリ......)
かすかな赤みを帯びた光は少女の体の中を循環する。
もう少し流せる......、そう思ったリニアは電流を一段階あげようとしたその時だった。
「ストップ」
勢いよく少年の手がリニアの手を掴んだ。
「!?」
予想外の出来事に驚いたリニアは反射的に少し強い電流を流してしまった。
「バリリリリリッ!!!」
先ほどとは一変して今度は紙を引き裂くような音が響く。
赤い光とともに電流は少女の体表を勢いよく流れた。

沢山の静電気が生じる。

それによって少女の髪は雷雲のようにボンバイエしていた。

「はは......」
リニアは笑った。
「雷雲みたいだね......」
少年も笑顔で少女を突つく。
「ゔ...ゔ......」
微かな嗚咽を漏らす少女の目は涙目だった(ほとんど泣いていた)。
ダメージが大きいのか、彼女は少年の背中に顔をうずめた。

(......もしかして黒歴史作っちゃったかな......)
そんな罪悪感を覚えながらリニアはあることに気づく。
右手から流している電流が消えている。
自分で止めた覚えはない。それに流している感覚もある。
しかし、電気の音がしない。
ではなぜか、リニアは少年の方を見た。
少年の手は微かに赤く光っている。
(電流を...変換している......!?)
じっと手を観察していると、視線に気づいた少年は手を離した。

(この人一体何者なの......?)

純粋な疑問が浮かぶ。しかし答えがでることはない。

暫くポカンとしていたリニアだが、はっと我に帰ると左手で少女の髪を触る。
するとたちまち髪に溜まっていた静電気は消え、もとの状態に戻っていった。

「本当にすいませんでした......失敗してしまって......」
リニアは素直に謝る。
「いや、俺も驚かせちゃったのもあるし......」
少年はぎこちない笑みを浮かべる。
少女はいつの間にか寝てしまったらしく、寝息を立てている。

「じゃあ僕たちそろそろ行くね、ありがとう」
少年は言った。
「いえいえ」
リニアが軽く会釈をすると少年と少女は立ち去っていった。
少年達が見えなくなるとリニアは再び観光を再開した。




城の周りを一周し終えると、太陽はもう既に沈みかけていた。
日が沈んだらおそらく敵は動き出す......昨日のブルーアイズの言葉を思い出したリニアは宿への帰路についた。




*この物語はそめちめ(@sometime1209)の物語と同じ世界の物語です。
今回はやたらと長くなり、いつにも増してぐちゃぐちゃです。
次回あたりからいよいよ戦闘が始まるかもしれません( ^ω^ )