G軍曹の書斎

小説です。

「ディザスター王国 ⑥」

赤いものが散った、というのは正確な表現ではない。
実際には赤い「火花」が散ったのである。
それは紛れもなく電気の異能力を持つリニアによるものだ。

リニアは赤い電撃をステッキの側面に当て軌道をそらした隙に横へ飛んで攻撃を回避する。
身を翻しつつ、銃の引き金を引いた。
バンッ...!!、火薬の爆ぜる鈍い音が響く。
弾かれた鉄塊が男の肩に向かって進む。

しかし、鉄塊が男に当たることはなかった。
どんなに撃っても、男に当たると弾かれたように軌道を変えてしまう。
「そんなに無闇に撃たれたら死んじゃうよ?」
男は笑いながら言う。
余裕の笑みを浮かべながら再びステッキを振った。
しかし先ほどのような攻撃とは違い、ステッキの軌道に沿って何やら空間の歪みを生みだした。
鎌鼬(かまいたち)って知ってる?」
鎌鼬とはとある国に伝わる、旋風に乗って人を切り裂く妖怪の名前だ。
近代では旋風の中心に生まれる真空状態が人の皮膚や肉が裂いたと考えられていたが、実際に自然界でそのような事は起こらないとされている。
あくまでも自然界では、だ。
ゴォオオオッ!!!。轟音と共にステッキの軌道に沿って空気が爆発し、大きな旋風が生まれた。
旋風の中心では地面がえぐり取られ、石などの破片が飛び交っている。
鎌鼬って殺傷能力はなかったはずですが......」
リニアはそう言いながら右に回避する。
その横を旋風は通過、背後にあった壁に当たり形を崩す。

しかし、それで終わりではなかった。

壁に当たり分散した風が不自然に一箇所に集まり、かろうじて見える形を作る。
そしてそれは先ほどよりも速い速度でリニアに襲いかかる。
「なんでもありですか!!魔術って!」
声を張って叫びなら電撃を繰り出す。
バリバリバリバリッ!!!
リニアの赤い電撃は対象を真っ直ぐ貫いた。
電撃によって形を崩した対象は再び風に分散する。

物凄い風とともに辺りの窓が一斉に割れた。

それを見た男は愉快そうに口元を緩める。
「形を崩したってなくなったわけじゃないってことはもうわかったよな?」

先ほど分散した風は男の元に集まると再び形を成す。
長い体に細い尻尾、さらには丸い耳。
見た目はそのまんまイタチであった。
違うところといえば爪が普通のイタチより鋭利であるところだろう。
その姿はまさしく「鎌鼬」であった。 

男の周りには複数のイタチいや、鎌鼬が生成される。
目は赤く、体は透明な形を持った魔術。
おそらく攻撃方法からして属性は「風」だろう。

(しかしミスったなぁ......)
リニアは思う。
地上ならどこにでも吹く風を使う男と、電気の異能力を持つリニア。
攻撃範囲が狭いリニアに対し、男は空間全体を攻撃する事が出来る。
その攻撃を電撃で防げるとしても一人では限界がある。
どちらが有利であるかは一目瞭然だ。

しかし。
こんな差に屈してしまうほどRemoveは弱くない。
こんな男に負けるほど、リニアは弱くない。


(きっと弱点と隙があるはず......!!)
リニアは駆け出す。
それに続いて数匹の鎌鼬が飛んでくる。
すかさず急ブレーキをかけ、体重移動を使って拳を叩き込む。
拳がイタチに触れる前に電撃をぶつけた。
バァアン!!!
破裂音とともにイタチは形を崩す。
しかし崩れた形は再び一箇所に集まり、形を作る。
「うーん...これじゃあイタチごっこになりますね......」
(鎌鼬だけに......)
そんなことを考えながらリニアは身を低くし、再び生成された鎌鼬を交わす。

「流石に異能力者でも風が相手だと大変かなぁ?」

男は首を傾けながら言った。
「俺の魔術はねえ、一定空間の中に風を起こすものすごーく単純な魔術なんだよね。しかも太陽放射の余計なエネルギーが夜はないから凄くやりやすいんだよね」
そう言っている間にも、鎌鼬の崩壊と再形成が繰り返される。
「いつまで持つかなぁ?その異能力」
男は既に勝利を確信していた。

その時だった。

ジャラジャラという音と共に複数の何かが光った。

直後に赤い閃光がその一つ一つに当たる。
バンバンバンバンバンバン!!!!!、幾つもの火薬の爆ぜる音が響いた。
男は反射的に近くの障害に身を隠す。
その直後に先ほどまで男が立っていた場所が吹っ飛ぶ。
「くそっ!!なんなんだ一体!!」
男は頭を抱えながら唸る。

もちろんこの攻撃の主はリニアである。
ポケットに入れておいた複数の弾丸をばら撒き、電撃を使って同時に撃つという器用な攻撃で、その弾丸一つ一つがフレミングの磁界の力を受け加速し、且つ弾丸に宿った電流が生み出す磁界をお互いに受け合うのであらゆる方向に拡散する。
威力は高いが持続できないリニアの電撃の弱点を補い、利点を生かした攻撃である。
まぁ言うなれば、「電磁ショットガン」だ。

拡散した弾丸は幾つかの鎌鼬に当たりその形を壊した。
しかし、今度は再形成されることなく完全に消滅する。
他の鎌鼬にも動きがない。

(やっぱり......)
リニアは確信した。
男の言っていた一定空間とは男の目に入る範囲、「視界」であること。
そして鎌鼬は男の指示で動いており、範囲に入っていないと再形成ができないこと。
リニアは笑う。
「やはり、旋風の操作にも限界があるようですね」
銃弾がやみ、再び顔を出した男には焦りの色が見えた。
「ち、ちくしょう!!」
先ほどまでの余裕は消え失せ、男は怒りをあらわにしている。
自爆してくれるかな?、などと思っていたリニアだが期待は外れた。
急に男が大人しくなったのである。
男は手の中のステッキを握りしめる。
「いいさ、俺のとっておきをみせてやるよ」
男はそう吐き捨てるとステッキで月を指し、数回円を描いた。
その動きに合わせ、大気が微かに動き始めた。
やがて円の中心に透明な塊が現れる。
「この魔術は魔力の消費が激しいから使いなかったんだけど......」
透明な塊の中に徐々に渦が生まれる。
「使ってやるよおおおお!!!!」
直後、透明な塊が破裂する。
そして巨大な竜巻を生み出した。
その大きさは、五階だての建物よりも大きい。
さらに、威力も倍増しており地面だけでなく周辺の壁もみるみるうちに破壊されていく。
「....!!!!」
リニアはとっさに走り出す。

魔術というのは大半は自分で術式を考えて使うのだ。
そして魔力が多ければ多いほど、生まれる力も大きくなる。
しかし同時に、魔力が尽きれば魔術師は戦えない。

つまり、これはあの男の一種の賭けであった。

(単なる旋風ならともかく、あの規模となると破壊は難しいな......)
リニアは考える。
基本的に魔術というものは術者が気を失えば(術者の思考が停止すれば)自然消滅する。
そこでリニアの電撃を使えば簡単なのだが、射程距離が短いという問題点がある。
故に近づくことが必要なのだ。
「遊びすぎたな......」
リニアは反省する。
その間も竜巻は街を破壊していく。

さすがにここまでくると、始末書は免れられないだろう。
リニアはこっそりため息をついた。

「逃げ切れるかなぁ?」
男はにやけながら言った。
しかし、流石に疲労したのか座っている。
そして声色を変えて言った。
「死んでもらうぞ」

男が再び杖を振ると、竜巻の進路は少し右に逸れた。
その先には廃品置き場がある。
ガラスなどの破片を吸収して、殺傷能力のアップのでも期待したのだろか。

竜巻が一旦進路を変えた隙にリニアは次の一手を考える。
「最低限意識を反らせれば......」
そう思った時だった。
リニアの視界に筒状の物体が映る。
それは家庭でやるような打ち上げ花火の一種だった。
(打ち上げ花火......!!)
リニアは竜巻を背に花火に駆け寄った。
足で花火を蹴り上げ、左手でそれをキャッチする。
(これなら......)

筒を手にして立つリニアの後ろで再び竜巻がリニアの方に進路を変えた。

同時にリニアも男の方へ走りだす。

赤い火花が散ると手の中の花火に火が付いた。
シュウウウウウウウウウッ!!!。
花火は煙の道を空に描きながらターゲット、男のもとへ飛んでいく。
「RPG!!?」
予想外の攻撃に驚いた男は反射的に横に飛んだ。
次の瞬間、幾つもの火の玉がカラフルな光を放ちながら視界を埋め尽くす。
「花火......!!!」
男はマントを使って火の玉から身を守る。

正確には守ろうとした。

花火に気を取られた男は、猛スピードで接近してきたリニアに気づけなかった。
その一瞬を使い、リニアは一気に拳を叩き込む。
男は肺の中から空気が漏れていくのを感じた。
「ぐぁっ.......」
くの字に曲がった男は道の向こうの噴水に突っ込む。
水しぶきが散った。
「ぐばぁっ...!!!ゲホッゲホッ......」
男は叩きつけられたダメージから辛うじて意識を保つ。しかし竜巻は消えてしまっていた。
「な...なんだよ......話が...違う......」
「あれあれ?先ほどの威勢はどこに行ってしまったんですか?」
立ち込める砂埃の中から金髪の少女、リニアが現れる。
その手には拳銃が握られていた。
躊躇無くそれを男に構える。
「殺さない...んじゃ、な、ないのかよ?」
男の声は震えている。
「国際警察は、人を殺さないんじゃないのか......?、なぁ、こ、殺さないんじゃないのか......?」
そんな男を見て、リニアは薄ら笑いを浮かべる。
「逆に聞きますが、そんなんで治安を維持できると思いますか?」
「え...」
男は固まる。その顔色がみるみる青くなっていく。
「でも、国際警察は確かに人を......」
「確かに国際警察の刑事に意図的に犯人を殺す権利はありません」
「なら......」
「勘違いしてませんか?」
リニアは言う。
「私がいつ、表舞台に立つ国際警察だと言った?」
「え、それって......」
「そうだ」
リニアは言葉を切る。拳銃に弾を装填し再び構える。
「国際警察の暗部、暗殺を主に行う部門」
「や、やめろ....やめて......」
「よく覚えとけ」
引き金に指がかかる。
「うわぁあああああああああ!!」

「Removeだ」

バァンッ!!!
一発の銃声が辺りに響く。

そして再び静寂が辺りを支配した。




*この物語は(以下略)
    今回は、詰め込みまくったせいでいろいろおかしいです。
    なんかおかしなところがあったら指摘していただけると嬉しいです。
    次回はブルブル君の話です。
    ん?ブルブルなんてキャラ気いたことがない?
    ......あ、ブルーアイズか。