G軍曹の書斎

小説です。

「ディザスター王国⑩ 魔女の血統」

彼はおもむろにドアを叩いた。コンコン、という音が廊下に響く。
「どうぞ、入りなさい」
低いが、どこか優しさを感じる声が中から聞こえた。
「失礼します」
彼はそう言うと、ドアを開けて中に入った。

ドアの向こうには広い空間が広がっていた。
ゲームで目にするような赤い絨毯が真ん中に敷かれており、両サイドには幾つか椅子が並べられている。

「私の名は、『レント・ディザスター』。知っているとは思うがこの国の王だ。どうぞよろしく」
髭を生やした王はそういうと冠を脱いだ。
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王の後ろには教会の十字架のように、剣が飾られている。
その剣には幾つもの魔法陣が書かれていた。
「初めまして。私は『クレシャ・ディザスター』です。娘がお世話になりました」
そう言ったのは王の傍に座る王妃。銀髪の髪を持った美しい姿は、やはりシャーラ姫に似ていた。
王妃は軽く礼をすると、ブルーアイズも礼をした。
「国際警察から来ました。ブルーアイズと申します。昨日の件についての報告に参りました」
と、ブルーアイズは使い慣れない敬語で言った。
やはり普段使っていないとこういった時に不安になってしまう。
そのことを彼は少し後悔した。
「そう硬くならなくても大丈夫だ。敬語だと大変だろう、私も最近使ってないからな」
ハハハハッ、と王は笑う。
それに合わせて「あはは」とブルーアイズはぎこちない笑みを浮かべる。
「ではお言葉に甘えて...。報告etcをさせてもらいますね」
ブルーアイズは事件の詳細を話した。


---15分程たった。
「事件の詳細は以上です」
そういってブルーアイズは話を終えた。

ずっと耳を傾けていた王は少し悲しそうな顔をしていた。
ずっと信頼していた騎士長が姫を狙ったのだ。無理もない。
愛国心は時として間違った方向に進んでしまうものである。

「あ、そうだ」
ブルーアイズは思い出したように顔を上げた。
「あの最初に報告した事件なんですが、少しばかり損害が出てしまいまして...」
(少しじゃないけどな)と心の中で付け足しながら彼は言った。
「賠償の請求は本部にしていただければお支払いしますので」
「例えばどんなものが壊れたんだい?」
言葉を切ったところで、王が質問してきた。
「えっ〜と...、壁とか壁とか道ですね...すみません...」
ブルーアイズは申し訳なさそうに言う。

「それは良かった」

王の言葉は予想外のものだった。
あれ?、とブルーアイズは心の中で首を傾げる。
「良かったとは...?」
「ああ、このディザスターの建物はほとんどを魔法で作られているんだ。だから少しくらい破壊されても、自動的に修復されるんだよ」
そう王は言った。
「災害が多い国ですから、そういったところはしっかりしているんですよ」
王妃が横から付け足した。
「え?じゃああの分厚い壁も...」
「もちろん」
王はドヤ顔でそう言った。
(凄い....流石ディザスター......)


「ところでブルーアイズ君。騎士長は今どうなっているんだい?」
王はそう質問した。騎士長...昨夜の事件の主犯である、シャインである。
「その方ならハルクード国の警察病院で治療中です」
ブルーアイズは答えた。
フォルという少年によって運ばれたシャインは、全身打撲の意識がもうろうとしている状態であったため軽く取り調べをした後、精密検査のために運び込まれたのだった。
現在療養中である。
(原因は魔法によって吹き飛ばされたんだっけ...?)
確かそんな感じだった気がする。
そこでふとブルーアイズはあることに気が付いた。

今日はまだシャーラ姫を見ていない。
「そういえば、シャーラ姫は大丈夫でしたか?」
ブルーアイズは聞いてみた。
「大丈夫だったよ。シャーラは今、部屋で荷物をまとめているかな...どうだっけ?」
王は王妃に聞く。
「確かあの少年と買い出しが何かに出かけて行きましたよ」
ブルーアイズは二人の会話の内容をうまく掴むことができなかった。
「えっ....と...準備って?」
「ああ、シャーラを旅に出すことにしたのだよ」
王は真顔でそう言った。
「え....?旅とはまた突然ですね....一人ですか?」
「いいや、違うよ」
「ですよね、流石に国の騎士とかと行きますよね」
「まぁそうなんだが、国の兵士とじゃないよ」
「え?」
「あの少年さ。あの少年に連れて行ってもらう事にしたんだ」
「は?」
ブルーアイズは思わず声を漏らした。衝撃が強すぎて情報が頭からは取り出せない。
「少年って、コートの怪しい?」
ブルーアイズの質問に王は「そうだよ」と言って頷く。
いよいよ王家が何を考えてるのかわからなくなってきた。
(昨日まで箱に詰まってた少女をいきなり紙ヒコーキに乗せて飛ばすのか!?こいつら...)
既に彼の頭から、敬意という概念は消えていた。
「な、何でまた見ず知らずの少年と、しかも二人きりで旅へ?」
「まぁ可愛い子には旅をさせろって言うじゃないか、それに...なぁ?」
王はニヤリと笑う。
「そりゃあ...ですよね...」
続けて王妃の笑った。
三人の間に変な空気が流れる。
ブルーアイズは背中を変な汗が伝って行くのを感じだった。
「そ、それは?」
勇気と力を振り絞り、彼は質問した。
「そりゃあ、もうすぐ孫ができるかも知れないからだよ。ほら、よくドラマとかであるだろ?」
王は会心のニヤつき顏でそう言った。傍らの王妃も「ですね」といって笑う。
(こいつら...娘以上に世間知らずかも知れねぇ...それに昼ドラの影響力がここまでとは......)
昼ドラでよくあるシーンといっても王は「駆け落ち」の事を言っているのだろうか。
それなら王が容認した時点で既に破綻しているのだが...。
ブルーアイズは頭痛を感じながら二人(バカ親)の方を向いた。
「王の決断なんで別に構わないのですが、もしもの時はどうするのですか?」
「あの二人なら大丈夫さ、私の勘がそう言っている」
王はそう言った。無論ブルーアイズに信じるつもりはない。
「それでも、です。今回の事件もシャーラ姫が宿す力が原因だとか...」
ブルーアイズは聞く。
「シャーラには確かに魔女の力が宿っている。それは時に危険なものだ。でもな...」
王は言葉を切った。
「それを理由にこれ以上城に閉じ込めるというようなことはしたくないんだよ。例え何かを宿してて、それが危ない物だとしても、普通の人と同じように世界を見つめて欲しいんだ......」
王は外を見つめながら言った。窓から差す日の光が王の顔を僅かに照らす。
ブルーアイズにも王が言いたいことがわかった。

「ところで、魔女の力とは一体なんなんですか?」
ブルーアイズは質問した。この疑問は昨日の調査の時からあった。
魔女の力...聞いたことのない力である。
「うーん...簡単に言うとな、素質みたいなものだ。詳しく知りたいなら国庫の本を見て行くといい、確か魔女の力についての記述がどこかに残っているはずだ」
王は言った。
(こここ国庫!?コッココッコォ国庫!?)
ブルーアイズは驚く。
入って大丈夫なんですか?、というツッコミはこの際どうでもいい。
「いいんですか!?本当に?」
ブルーアイズは必死に興奮を隠しながら言った。
実は歴史とか古書とかに興味があるブルーアイズである。
「ノープロブレムだ」
親指を立ててキメ顔をした王に「お願いします!」と彼は言った。
「じゃあクレシャ、案内してやってくれ」
「わかりました、こちらです」

こうしてブルーアイズは王室を後にして、国庫へ向かったのだった。







*この物語はそめちめの話と同世界で進む別ストーリーです。
    今回は長かったですが、次回も長いかもしれないです。