G軍曹の書斎

小説です。

ディザスター王国最終章 「箱庭のお姫様」

「ここです」
王妃はそう言うと、木の扉を前に押した。
少し大きめな木の扉が音を立てながら開く。
ドアの向こうには、広い空間が広がっていた。
予想以上よりも遥かに物が少ない、というか国庫にしては明らかに物が少ない。
「国宝などは美術館に保存してあります。こんなところではカビが生えてしまいますのでね」
ブルーアイズの心を見透かしたように王妃は言った。
「こっちです」
ブルーアイズは王室の案内でさらに奥へと進む。
細い通路を抜けた先にはずらりと本棚が並んでいた。しかし、ここもかなりのスペースが空いている。
「意外と本が少ないな...」
ブルーアイズは思わず溢した。直後にはっと王妃の方を向いた。
そんなブルーアイズを見た王妃はニッコリと笑って「昔はたくさんあったんです」と言った。
「ここの本の大半は国連の方々が研究のために持っていかれたので、本が減ってしまったのです」
「へぇ...、そんなこともしていたんですか」
「まぁ、こっそり隠していた重要書物があるんですけどね」
「え」
「これです。魔女について書かれた数少ない書物...」
(俺も国連の人間なんだけど大丈夫かな...?)
少し心配になったブルーアイズだが、気にせず本を開く。
「では私は戻りますね。終わったらそこに騎士がいますので」
「はい分かりました」
案内を終えた王妃は王室へ戻っていった。
それを見届けると、魔女の記述を探す。

それはすぐに見つかった。



   『第二十二項  魔女の力』
---魔女の力とはかつて天より現れたとされる七人の魔法使いの血統により受け継がれる魔力に対する素質のことである。ここディザスター王国においては第三の魔女「イース」の血統によってその力が受け継がれる。
この力を持つことで、大半の魔法を使いこなすことができる。また、体内に保有する魔力が多いため大規模な魔法の発動源にもなり得る。
しかし、保有する魔力や特別な素質は使い方を間違えると世界に大災害を引き起こす恐れがある。
また、体内の魔力が暴走することでも同じことが言えるだろう。
実際過去に魔力の暴走が起こったときには半径100mがえぐり取られたという例がある。
魔力の暴走については継承者の精神と肉体が安定していれば起こることはないだろう。

さて、魔女の力はどのように継承されるのか。
それは継承者の生命力が弱くなった時に、継承者の意思によって継承される。
また、場合によっては生まれた時から魔女の力を持つ場合もある。

第三の魔女「イース」は伝承によれば銀髪の女性であったらしい。
彼女は治療魔法に特化した魔女であった。

魔女の力は例え途絶えても、何らかの形で残るとされている。
魔女の力は正しい使い方をしなければならない ---




一通り読み終えたブルーアイズは本を閉じた。
思えばリニアをかなり待たせてしまっている。
ブルーアイズは本をもとあった場所にしまう。
「さてと」
そう言うと彼は大きく伸びをした。
「ん?」
ふとブルーアイズは棚の上の箱を見つけた。オルゴールだろうか?
引き寄せられるように箱に近づく。
「なんだろう」
金具を外して箱を開けるとそれは眩い光を発した。
「?」
光はブルーアイズの体を包む。
(魔法でできたおもちゃか何かか?)
再び箱を閉じると、光は消えた。
「なんだったんだろう」
一瞬調べたい衝動に駆られたが、リニアを待たせていることを思い出す。
「また今度にするか」
そういうと彼は国庫を後にした。



---城の外へ出たブルーアイズはリニアを探す。かれこれ二時間くらい経ってしまっただろうか......。

「あ」

ブルーアイズはベンチで眠る、少女を見つける。無論リニアである。

リニアは暖かな太陽の日差しの下、スヤスヤと眠っていた。膝下には猫もいる。

「いやぁ、お待たせ」

「にゃー」

「お前じゃねーよ」

そう言うと、ブルーアイズは猫の鼻をえいっと押した。猫は「フニャッ」という声を出す。

「...ん...? あ、終わったんれすか」

「おう、お待たせ」

目を覚ましたリニアは大きく伸びをすると、膝下の猫を退ける。そして横にかけて置いた花をブルーアイズに渡した。

「じゃあ、もう行くんですね」

「そうだな」

そう言ってブルーアイズが城門の方へ向いた時だった。二人は揃って「あ」と声を発する。

二人の目の先には、銀髪の少女、シャーラ・ディザスターが歩いていた。背中には大きな荷物を背負っている。

(あ、ゲロガール...)

(あ、アフロボンバー...)

二人がとんでもなく失礼なことを思いながら彼女を見ていると、ドレスの裾に何かが引っかかったのか、バランスを崩し、盛大に転んだ。その反動で、荷物の一部が二人の方へ飛んでくる。

そして、ブルーアイズがそれをキャッチした。

「...これって...藁人形だよな...」

「ですね......」

予想外の展開に顔を見合わせる二人だったが、すぐにシャーラ姫の事を思い出し、駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

ブルーアイズがそう声を掛けると、地面に倒れ、痛みにワナワナしていたアホ毛姫は顔を上げた。

「あ、昨日の警察の方々...はっ!、失礼しました!」

そう言うと、姫はガバッと起き上がり服についた土を払う。そして、手に持っていた荷物を地面に置いた。

「先日はありがとうございました」そう言うと、深くお辞儀をした。

「いえいえ」とブルーアイズは言った。

シャーラ姫は顔を上げると、隣にいたリニアに気づく。

「あ、あなたは城下町の...」

そこでシャーラは言葉を切る。

なんだ知り合いか?、などとブルーアイズは思っていると横でリニアがぎこちない笑みを浮かべていた。何かあった顔だ、とブルーアイズは思う。

「こ、この前はごめんなさい...少しやりすぎてしまって...」

「い、いや大丈夫です!いい経験になりましたから!」

シャーラ姫も、引きつった笑みを浮かべながら言う。

(いい経験...なのだろうか...?)

リニアは心の中で申し訳ない気持ちになった。ブルーアイズも何かを察したのか微妙な笑みを浮かべていた。

「あ、そういえばこれ落としましたよ」

そう言ってブルーアイズは先程の藁人形を渡す。

「あ、すいません!ありがとうございます」

とシャーラ姫は丁寧に受け取った。

「これはお父様が『人に幸せを呼ぶアイテム』といってくださったものなんです」

シャーラ姫はそう言った。「なかなか効果は出ないんですけどね」、と付け足す。

(そりゃそうだろう、他人を呪う道具だからな)

とブルーアイズは心の中でツッコミを入れる。リニアはリニアで笑いをこらえている。

「そういえば、旅に出られるそうですね」

「はいっ!そうなんです!」

シャーラ姫は興奮した面持ちで答えた。その瞳には微かだが星の形が見えた気がした。

「世界は広いですからね、楽しんできてください」

「それと」、そう言ってブルーアイズは花束を差し出す。

「これはそのお祝いってことで、どうぞ」

「ありがとうございます!」

シャーラ姫は両手で花束を受け取るとそう言った。

「これは何というお花なのですか?」

ストケシア、といいます。シャーラ姫にピッタリでしたので」

そうブルーアイズが言うと、シャーラ姫はしみじみと花を眺めた。

すると、はっと思い帰ったように顔を上げた。

「はっそうでした!そろそろ行かないと!フォル君が待ってるんでした!」

そう言うと、彼女は改まり、

「今日はありがとうございました。あと、花も...。またどこかで会いましょう」

そう言うと一礼し、荷物を背負って城門へと走っていった。二人は、シャーラ姫が走って行くのを見送る。

「可愛らしい人でしたね」

そうリニアが言った。

「そうだな」

とブルーアイズは答える。

シャーラ姫が城門を抜けると、長身のコートの少年が現れた。城下町で見た少年だ。ブルーアイズへ直感的にその少年から何かを感じた。

「やっぱ何かありそうだな」

「何か言いました?」

少し前に居たリニアが振り向いた。

「いや、なんでもないよ」ブルーアイズは言う。

「じゃあ俺たちも行こうか」

二人はゆっくりと城門へ歩いていく。

太陽は優しく城を照らしている。

「そういえば、さっきの花ってどんな意味があるんですか?」

「ああ、あれはだな、花言葉がな...」


二人を優しく運ぶように、そして姫の旅立ちを祝うように、一筋の風が走り抜ける。


このディザスター王国に背を向けて。


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(ディザスター王国編 完)