ディザスター王国最終章 「箱庭のお姫様」
---城の外へ出たブルーアイズはリニアを探す。かれこれ二時間くらい経ってしまっただろうか......。
「あ」
ブルーアイズはベンチで眠る、少女を見つける。無論リニアである。
リニアは暖かな太陽の日差しの下、スヤスヤと眠っていた。膝下には猫もいる。
「いやぁ、お待たせ」
「にゃー」
「お前じゃねーよ」
そう言うと、ブルーアイズは猫の鼻をえいっと押した。猫は「フニャッ」という声を出す。
「...ん...? あ、終わったんれすか」
「おう、お待たせ」
目を覚ましたリニアは大きく伸びをすると、膝下の猫を退ける。そして横にかけて置いた花をブルーアイズに渡した。
「じゃあ、もう行くんですね」
「そうだな」
そう言ってブルーアイズが城門の方へ向いた時だった。二人は揃って「あ」と声を発する。
二人の目の先には、銀髪の少女、シャーラ・ディザスターが歩いていた。背中には大きな荷物を背負っている。
(あ、ゲロガール...)
(あ、アフロボンバー...)
二人がとんでもなく失礼なことを思いながら彼女を見ていると、ドレスの裾に何かが引っかかったのか、バランスを崩し、盛大に転んだ。その反動で、荷物の一部が二人の方へ飛んでくる。
そして、ブルーアイズがそれをキャッチした。
「...これって...藁人形だよな...」
「ですね......」
予想外の展開に顔を見合わせる二人だったが、すぐにシャーラ姫の事を思い出し、駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
ブルーアイズがそう声を掛けると、地面に倒れ、痛みにワナワナしていたアホ毛姫は顔を上げた。
「あ、昨日の警察の方々...はっ!、失礼しました!」
そう言うと、姫はガバッと起き上がり服についた土を払う。そして、手に持っていた荷物を地面に置いた。
「先日はありがとうございました」そう言うと、深くお辞儀をした。
「いえいえ」とブルーアイズは言った。
シャーラ姫は顔を上げると、隣にいたリニアに気づく。
「あ、あなたは城下町の...」
そこでシャーラは言葉を切る。
なんだ知り合いか?、などとブルーアイズは思っていると横でリニアがぎこちない笑みを浮かべていた。何かあった顔だ、とブルーアイズは思う。
「こ、この前はごめんなさい...少しやりすぎてしまって...」
「い、いや大丈夫です!いい経験になりましたから!」
シャーラ姫も、引きつった笑みを浮かべながら言う。
(いい経験...なのだろうか...?)
リニアは心の中で申し訳ない気持ちになった。ブルーアイズも何かを察したのか微妙な笑みを浮かべていた。
「あ、そういえばこれ落としましたよ」
そう言ってブルーアイズは先程の藁人形を渡す。
「あ、すいません!ありがとうございます」
とシャーラ姫は丁寧に受け取った。
「これはお父様が『人に幸せを呼ぶアイテム』といってくださったものなんです」
シャーラ姫はそう言った。「なかなか効果は出ないんですけどね」、と付け足す。
(そりゃそうだろう、他人を呪う道具だからな)
とブルーアイズは心の中でツッコミを入れる。リニアはリニアで笑いをこらえている。
「そういえば、旅に出られるそうですね」
「はいっ!そうなんです!」
シャーラ姫は興奮した面持ちで答えた。その瞳には微かだが星の形が見えた気がした。
「世界は広いですからね、楽しんできてください」
「それと」、そう言ってブルーアイズは花束を差し出す。
「これはそのお祝いってことで、どうぞ」
「ありがとうございます!」
シャーラ姫は両手で花束を受け取るとそう言った。
「これは何というお花なのですか?」
「ストケシア、といいます。シャーラ姫にピッタリでしたので」
そうブルーアイズが言うと、シャーラ姫はしみじみと花を眺めた。
すると、はっと思い帰ったように顔を上げた。
「はっそうでした!そろそろ行かないと!フォル君が待ってるんでした!」
そう言うと、彼女は改まり、
「今日はありがとうございました。あと、花も...。またどこかで会いましょう」
そう言うと一礼し、荷物を背負って城門へと走っていった。二人は、シャーラ姫が走って行くのを見送る。
「可愛らしい人でしたね」
そうリニアが言った。
「そうだな」
とブルーアイズは答える。
シャーラ姫が城門を抜けると、長身のコートの少年が現れた。城下町で見た少年だ。ブルーアイズへ直感的にその少年から何かを感じた。
「やっぱ何かありそうだな」
「何か言いました?」
少し前に居たリニアが振り向いた。
「いや、なんでもないよ」ブルーアイズは言う。
「じゃあ俺たちも行こうか」
二人はゆっくりと城門へ歩いていく。
太陽は優しく城を照らしている。
「そういえば、さっきの花ってどんな意味があるんですか?」
「ああ、あれはだな、花言葉がな...」
二人を優しく運ぶように、そして姫の旅立ちを祝うように、一筋の風が走り抜ける。
このディザスター王国に背を向けて。